生身のまま宇宙を漂う。 
それは、空よりもむしろ、海の中を泳ぎ回る感覚に近い。 
 
星たちは魚。二千億もの光が織りなす、潮の流れ。 
温かな虚空と、柔らかな闇。 
次元粒子――ディアスタシオンのひと粒ひと粒が、波となって私の身体を駆け抜けていく。そんな気がした。 
 
広い世界。ここに居るのは、私だけだ。 
全身を虚無へとゆだねて、私はペルセウスの腕に抱かれる。 
ありのままの宇宙。それはどこまでも透明で、同時に果てしなく純粋だった。 
 
 
オールトの雲で、生まれたばかりの彗星たちが笑っている。 
そんな他愛もない光景すらも楽しみながら、私は星くずの世界を渡っていく。 
 
まるで、自分自身がこの広大な宇宙と繋がっているかのようだった。 
時折、思い出したように飛んでくるデブリを、私は目を瞑ったままでかわしていく。 
 
おかしかった。今の私は、一瞬で、惑星の直径と比較できるほどの距離を進んでいる。 
それなのに、時間の流れは緩やかにすら感じられた。 
 
大統一力はもとより、魂の重みにすらも縛られない。 
ああ、これが私の求めていたもの。 
永遠の世界。 
そこにあるのは、完全で無限な自由だった。 
 
 
それから私は十分な満足感と共に地球を見上げ、微笑みを――? 
 
 
(――――ッ!) 
 
痛い――。痛い、いたい、痛いいたいイタイ! 
 
唐突に、脳髄の奥が軋み始める。 
これまでの身に過ぎた悦楽を罰するかの如く、今や痛覚だけと化した五感が私を貫く。 
両腕で頭を抱えると、私は痛みに耐えようとして銀河の隅へとうずくまった。 
 
なんということ。ここで終わってしまっては、全てが一からやり直しになると言うのに! 
 
私は嘆く。だけど、もはや何もかもが手遅れだった。 
 
私の目の前に広がる宇宙は、既に崩壊の様相を呈している。 
恒星の形が崩れ、暗黒に青白い光が重なり始める。 
目の前に幻影となって浮かび上がる、冷たく無機質なメッセージ。 
惑星が、星系が、恒星団が、散り散りのノイズとなって霧散していく。 
広大な宇宙が、ただひとつの点となって閉じていく――。 
 
……仕方なく、私は諦めの溜め息を吐いた。 
そしてようやく、目覚めるための準備を始める。 
名残惜しくはあった。 
だが、ここで私にできることなど、今ではもう何もないのだ。 
 
 
目を閉ざす。 
 
景色が消える。 
 
私の意識が、この世界から溶けて無くなる。 
 
 
 
――そうして私は、宇宙を泳ぐ星たちの夢の中から締め出された。 
 
 
	
	
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